論文必勝法(情報処理学会全国大会のイベント)

3月6日〜8日@東北大で開催された情報処理学会第75回全国大会の企画で,「論文必勝法〜基礎から一流誌・会議採録まで〜」というセッションがあったので,聴講してきました.その際の内容(自分が興味を持ってメモしたところだけ)をまとめましたので,よろしければ今後の執筆活動のご参考になれば幸いです.

3部構成.1・2部は大阪大の原先生と香川大の垂水先生による招待講演で,3部は論文誌編集委員によるパネルディスカッションでした.

【招待講演1】大阪大学・原隆浩先生:一流論文誌・国際会議に採択されるための研究「心・技・体」

原先生ご自身の国際会議・論文誌への投稿のご経験を織り交ぜながら,投稿への心構えを説明してくださいました.プレゼンがすごくお上手です.一流の研究者は聴衆への説明も秀逸なのだなと思いました.
講演の要点は以下のとおりです.

  • 講演結論:「こつこつ,きっちりやれば良い」
  • 一流論文誌に論文を通す必要があるのかという疑問の声があるが,現在は論文誌や国際会議が乱立しているため,一流の論文誌・会議のプロシーディングスではないと読んでもらえないのが実状.一流を目指すべきべきだ.
  • 常にトップランクの論文誌,国際会議を目指すべき.2流・3流で良いと思っていると,そのうち腕が鈍る.
  • 一流論文誌に掲載されるためには,人一倍の努力が必要である.ちゃんと論理立てて書かないとだめ.
  • 国際会議には,単に投稿するだけでは採択されない.良い研究でなければいけないこと,書き方の技術を磨く必要がある.
  • 海外の研究者は,一流論文誌・国際会議に通すことが使命.通さなければ首になる,生活がかかっている.日本の研究者は,一流の論文誌でなくても食っていける.
  • 一流の論文誌に通している人と手を組むのも手.

以上がイントロ部分.以下,心技体.

    • 研究課題(問題)のモデル化が重要.
    • 研究のストーリーを描くこと.これが研究成否の80%を占める.
    • 問題設定・モデル化がなっていない.
    • その技術は使えそうだが,どんな問題を解決したのかが不明確.
    • 問題設定とモデル化がしっかりとしていれば,ある条件下での検証で有効性を示せる.
    • 実験結果の事実を述べるだけではなく,そこから得られる知見を書くこと.
    • 新分野開拓能力を身につけること
      • 1つの分野に特化するのではなく,複数分野を勉強し,境界領域を攻める.
      • 研究の軸を固定して応用を変えてみる,あるいは,軸そのものをずらす.
  • 技:論文の書き方
    • 論理展開をしっかりと.
      • 起…背景
      • 承…動機
      • 転…手法
      • 結…結果
    • 1章(イントロ)が最も重要.問題定義,関連研究,問題の解決方法,評価,結論をコンパクトにまとめる
    • 最終章(結論)は次に重要.
    • 完成後は必ず読み返す.そのときに「?」がついたところは,査読者も「?」となるので,改定する.
    • 知り合い(共著者ではない)との相互レビューが効果的.
    • 一度は一流論文誌に通してみる.そうすることでコツが分かってくる.
    • 継続的に通す(自分のブランド力を上げていく).いくらブラインド査読といっても査読者は著者が分かる.
    • 投稿先論文誌とタイミングは重要である.
    • 海外コミュニティに飛び込む.世界トップレベルの研究者と仲良くなろう.
    • 今すごい人がすごい.過去の遺産にひきずられている人は(個人的に)すごくない.
    • 自分にごほうびと罰則を与える.論文通ったら○を買う,だめだったらお小遣いを減らす,等.
    • 日本の研究レベルは高いことは事実だが,一流の国際会議になると採択率が低いのが現状.

【招待講演2】香川大学・垂水浩幸先生:論文のイロハ

垂水先生のご好意で,講演で使われたパワーポイントの資料が公開されています.基本的に,この資料に従って説明されていました.学生の書いた文章の例があって,自分の経験と重なったこともあって大変共感しました.面白かったです.
パワーポイントの資料には,他の多くの先生方がまとめてくださっている,論文の書き方や研究への取り組み方のWebサイト,書籍が紹介されていますので,こちらもぜひ参考にしてくださいとのことでした.

【パネルディスカッション】採録と不採録のあいだ〜論文誌編集の現場から〜

編集委員会の主査の方々って,若いんだなあという印象.それはさておき,論文誌の編集委員会,各グループの主査の先生方がパネラーとなって,いろいろとご意見を頂きました.個人的に興味があったところだけをメモしておきます.

  • 「○○をやってみたらうまくいった」といった実践事例は,一部業界ではウケるが,学術論文ではダメ(IBM・中村さん)
  • 論文を写経すると良い(静岡大・石原先生)
  • 新規性がない投稿論文が多い「サーベイが不足している,比較論文がない」
  • 評価の正当性「なぜこの論文を出す価値があるのか」が明らかになっていれば,必ずしもベースラインに勝つ必要はない(東大・吉田先生)
  • 筋の通った実験であれば価値がある.実験は他者に勝つためではなく,自分の手法の有効性を検証することにある(東大・吉田先生)
  • 若い査読者は査読が厳しい傾向にある(ポトス・坂東さん)
  • (査読者へのアドバイス)査読報告書は十分に気を配って書いて下さい(ポトス・坂東さん)

この他にも,企業からも積極的に論文投稿してください(IBM・中村さん),JIP(Journal of Information Processing誌)にどんどん投稿してください(東工大・横田先生)というお話もありましたが,その点については割愛します(ちゃんとメモはとってない).